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求め続けるもの(10) [長編]

―早朝―

「陛下、諸外国の仕業の可能性もございます」

側近の居並ぶな中でイル・バーニが重い口を開いた。

「もしやエジプトが・・・」

ルサファがまたかと言う顔で言った。

「それはないだろう。あのラムセスが姑息な手段を

用いるとも思えない」

カイルはすぐに否定した。

「それに外国人の出入りがあれば目立つはずでございます」

カッシュも補足する。

「先ほど調べましたところ食料を乗せた荷車が

何台か丁度一時間ほど前ここを出た事がわかりました」

「イル・バーニ!」

ならばこんな所で話してる場合ではないだろうという視線。

「勿論、内密に部下に行方を追わせております」

カイルの言葉を抑えるように言った。

「向うは隊商か?」

「多分そうでしょう。もし違う方向ならクロと見るべきでしょうな。

今やイシュタル様を知らぬ者は居ないほど諸国にも

知れ渡っております。そのような方を連れ去り

何をしようと言うのか?イシュタルの恩恵を

賜おうという浅はかな考えか?このヒッタイトを

混乱させようと言う企みでございましょうか?」

程なくして部下から報告が入った。


「不審な様子はなさそうですがきっと尻尾を出すはずです。

今しばらくご猶予を」

「陛下、ユーリ様は本当に隊商にいらっしゃるのでしょうか?」

ハディは心配そうに訊いた。

「もしそうならわたくしたちをそちらに向かわせてください」

シャラとリュイは今すぐにでもユーリの傍に行きたいと懇願した。

「・・・・・・」

「陛下・・・?」

「今はまだ待て。はっきりするまで動く事はならん」

「は、はい」

気圧された様に三人は言葉を詰まらせた。



『此処に居るものは側近中の側近そのような事は考えたくは

無い・・・が』



「わたしは自分の部屋の戻る。報告はそこで待つ」





「・・・どう思われますか?」

イル・バーニは二人になるのを見計らって声をかける。

「わたしの心の中にはある疑惑が渦巻いている」

「・・・・・・」

「わたしは側近の人材を違えたと思うか?」

「いいえ」

「では何故ユーリは誰に見咎める事もなく外に出れたというのだ?」

「恐れながらこれはあくまでわたしの推論ですが

陛下と二分するほどユーリ様は才に長けておられる。

多くの者の眼をかいくぐって行く事など造作も無い事かと」

「ユーリはわたしを欺くためにこの一ヶ月過ごしていたのだろうか?」

「わたしは女性に関して得意ではございませんが

ユーリ様がそのような企みをされるか否かはわかっております」

「ハディたちが嘘をついている可能性は?」

「あの者たちがユーリ様を危険に晒すような事はするとは

思えません。しかしながらユーリ様が何かを申されたのだと

すれば有り得ますな」

「そう簡単には口を割るまい。ある意味ウルヒより厄介だ」

「ですから罠をしかけたのです。わたしとしてはあまりこのような事は

好みませんが。しかしながらユーリ様の失踪はいつまでも

隠しおおせるものではありません。」

「わたしはここ数時間ずっと考えていた。誰かがユーリのために

このような事をやったのであればよほどの理由があるはず。

それにユーリがこのようなやり方を選ぶとは考えがたい。

あれはまっすぐな性格だからわたしの元を去りたいのなら

直接言うはずだ。今までユーリと暮らしてきてそれくらいの事は

わかっている」

「どうであれこのままユーリ様が居なくなられるわけには

参りません」

「わたしはもうユーリを縛りつけようとは思わぬ。ただ何かあるのなら

本人の口から聞きたい。そうでなければ納得できない」

「ごもっともでございます」





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