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求め続けるもの(12) [長編]

「やはりユーリ様はアリンナにいらっしゃいましたか」

「うむ。イル・バーニの読みどおりだった。

ハディたちに荷は検められん。その荷車にユーリは潜んで

タロスの元に向かったようだ」

「明朝、視察と言う名目で発たれるのがよろしいかと」

「そのようにいたそう」

「逸る気持ちはお察しいたしますが皇太后に

気取られてもいけません」

「みなまで言わなくてもわかっている」

「明日はわたしはご一緒できませんが首尾よく

運ばれる事願っております」

イル・バーニは軽く頭を下げて去った。


『ユーリの所在がわかってホッとしている反面

困惑しているわたしがいる。理由は知りたいが

もしわたしを否定するものならばそう思うと

心が騒ぐ』


「本気で人を愛すると脆くなる。失う怖さをしらしめられる。

それでも愛しいという気持ちは止められぬ。人間とは

不条理なものだ」


明日の再会で孤独な夜は無くなるのか?

それとも終わりない絶望が待っているのか?


「おまえは知っているか?わたしが眠れぬ夜を

過ごしてる事を。掴めぬものを望む切なさを抱えながら

朝を迎えてる事を」


悔しいほど美しい月を見ながらカイルは想いを巡らせた。


―早朝―

「このような早朝に皇帝が出掛けるとは何事か?」

皇太后は不審げに尋ねた。

「アリンナの視察にございます」

「これは妙な事。鉄を支配するイシュタル様が此処に

おられるのに今更何用か?」

「言われる事はごもっともではございますが

鉄の技術は諸国の羨望の的にございます。よからぬ事を

考える輩も少なくはございません」

「そのためにハッティ族の族長の娘達を女官として

召し抱えているのであろう?裏切りの予兆でも

あったのか?」

「決してそのような事はございません!陛下はそれほど

愚かではありません」

「側室の傍から離れられるようになられただけ

成長なされたという事か」

さすがにイル・バーニも気分を害したようだったが

それには触れず切り返す。

「そう言えば以前皇太后様にお仕えしていた隻眼の神官の

足取りが全く掴めませぬがよもやお知りではありますまいな?」

「無論、わたしが知るはずはなかろう。内乱を起こそうとしたのも

ウルヒが独断でした事。わたしには全く関係の無い事」

「いや、失礼いたしました。それではこれで」

皇太后の小さい舌打ちを余所にイル・バーニは

嬉しそうな顔でその場を後にした。


『疑念がこれで消えれば良いのだが・・・』

振り返ると笑みは消え難しい表情に変わった。




カイルはルサファとハディ、そして何人かの兵士を従えて

アリンナに向かって馬を急がせていた。



―アリンナ―

「早朝とはいえ目立ちまする。早く戻りましょう」

ユーリは黒い髪を隠すようにベールを被り

ウルヒが落ちた赤い河を眺めていた。

タロスが辺りを覗いながら声をかけた。

薄暗いうちから一時間以上も同じ場所に

何を言うわけでなく佇んでいた。


「お体に障ります」

その言葉にハッとしてようやく振り返る。


タロスの元には娘から連絡が届き

もうすぐカイルが来る事を知っていた。

しかしユーリには何も告げなかった。


「こんなとこから飛び降りるなんてウルヒはそんなにも

皇太后を守りたかったのかな?」

「わたしにはウルヒの気持ちは到底理解できませんが

あの男にとって皇太后様が何よりのよりどころで

あったのでしょう」


「命を賭けても守りたい存在という事?」

「さようでございます」











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