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求め続けるもの(15) [長編]

「今度こそはハットゥサに連れて帰る!」

カイルは剣を握り直し繰り返した。

国を治めるにはナキア皇太后を廃位させ火種を

消さねばならない。

その為にはどうしてもウルヒという生き証人が必要だ。

今回は前と違ってカイルが一方的有利と言う運びではない。

「この目にも慣れてまいりました故、前と同じではありません」

前回は目を負傷してすぐで遠近感が取れず

あっさりと敗北したが持ち前の勘の良さで元の感覚を

取り戻していた。

心なしかカイルがおされ気味になる。

「部下に助けて頂かぬのですか?」

「おまえごときわたしだけで充分だ。それより

今日は雄弁だな」


「わたしにとって良き日になるでしょう。

故に楽しくて仕方がありませぬ。なにせ最大の敵である

貴方を滅ぼせるのですから」

「ジュダではこの国を治められぬ!穏やかで優しすぎるのだ。

何故わからぬ?たとえ皇帝になったところで皇太后の傀儡ではないか」

「後の事などどうでも良い事。わたしの望みはジュダ殿下が

皇帝になられる事のみ!さあ、もう話も終わりに致しましょう」

決着をつけようと促す。

「陛下!」

「ルサファ、手を出すな!皇帝が助けられたとあっては

いい物笑いの種だ」

「しかし・・・」

緊迫した状態が続く。


その時、ユーリが地面に倒れこむように何度も吐いた。

「ユーリ!!」

その瞬間、ユーリに気を取られてカイルは一瞬

警戒を解いてしまった。

ウルヒはそれを待っていた。


「わたしの勝ちですな」

勝ち誇ったウルヒの顔が見えた。


ウルヒの渾身の力こめた一太刀がカイルを襲う。

「陛下!!」

カイルを呼ぶ何人もの声が重なる。


最悪を想像する人々。


しかしウルヒの右手を小太刀がかすめ反動で

剣が地面に落ちた。



誰が!?



そう思って目を凝らすとユーリが腿の辺りにいつも

したがえている小太刀が消えていた。


とっさに投げた小太刀がウルヒの動きを阻止していた。


「・・・水を差して・・ごめんなさい」

息も苦しそうなユーリ。


「こうなればお二人とも一緒に消えて頂きましょう!」

すぐさま落とした剣を拾い上げてカイルに二太刀目を

浴びせよう試みた。

カイルも体勢を立て直しそれを受ける。


剣と剣のぶつかり合う音が繰り返される。


二人とも引かない。


息の詰まりそうな緊迫感。



それを破ったのは意外なものだった。


「陛下、崩れます!」

ルサファはハラハラと落ちてくる小石に気づいて叫んだ。


このために二人の間を分断するように岩が落ちた。

この状態ではさすがのカイルもどうすることも出来ず

またしても二人の決着は持ち越された。


ウルヒが岩の下敷きになったかは確認は出来なかったが

誰もが逃げおおしたであろうと思った。

口には出さなかったのはここまで追い詰めながらと言う

悔しさがあったからだろう。



「・・・ユーリ」

「陛下」

誰もが二人が惹かれ合ってる事は理解できた。

しかし二人の間には数々の問題が山積みされていた。



「ごめん・・なさい・・・」

ようやく立っているような状態のユーリに

カイルの視線は温かかった。

「陛下、ユーリ様をお責めにならないで下さい!

お叱りはわたしどもが・・・」

「怒ってなどいない。ただ理由を知りたい。わたしは無体な事は

しないと約束した。それなのに何故わたしから離れようとしたのか、

知りたいのはそれだけだ」


「・・・・・あたしの・・・」

ユーリがやっと話そうと口を開こうとした時

一本の矢が二人をめがけて飛んできた。


ようやく解けた緊張に誰もが油断していた。





























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