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求め続けるもの(16) [長編]

矢は幸い二人をかすめ大事には至らなかった。

しかしそれは最悪の始まりに過ぎなかった。

いつの間にか何者かに囲まれていた。

ヒッタイト領のアリンナに他部族など

進入できるはずは無い。

「何者だ!?」

カイルの表情が怒りに満ちたものに変わる。

「死に行くものに不要な事」

リーダーらしい男が言った。

「陛下、皇太后の私兵では?」

ルサファが耳打ちした。

『わたしが少数でアリンナに向かう事を知って

皇太后が差し向けたのか?ユーリがこのような状態では

応戦するのも難しい。どうする?』

再び緊張が走る。



「あたしが・・・引き付け・・るから突破を!」

そう叫んだのは馬に乗ったユーリだった。

いつの間に?そう思うほど迅速だった。


「ユーリ様、いけません。今無理をなさっては御子が・・」

ハディの言葉にカイルは愕然とした。

ハディはしまったと言う表情で口を塞いだ。

確かに子と聞こえた。

まさかユーリに子供が・・・?

じっとユーリの顔を見る。

戸惑いの表情にそれが真実だとわかった。

それなら何故ユーリがこんな無謀な事をしたか

理解できる。

「わたしとユーリの子が・・、本当なのか?」

「本当でございます」

ハディは観念したように認めた。

「ユーリ・・・」

『ユーリはその事をどう思っているのだろう?

ユーリの心を無視して強引に自分のものにした

その結果できた子を疎ましく感じているのか?

さっきわたしに話そうとしたのはこの事なのか?』




「陛下、どうやらただのならず者の集まりのようです」

射抜かれた矢を剣で落としながら言った。

カイルとハディの会話は他の者には

幸い聞こえていないようだった。

ルサファにはすぐに襲ってきた輩が小者であると

悟った。

剣を交えれば訓練された兵士であるかどうかくらい

判断できた。

「ユーリ、無理をするな!この程度の者たちなら

すぐに制圧できる」


馬で取り囲んだ者たちを蹴散らすユーリ。

やはり顔色は悪く額からは大量の汗が滴り落ちる。

カイルはユーリに無茶はさせたくなかった。

本当にユーリの中に子供が居るのなら

これ以上危険にさらすわけには行かない。


半分近く倒されると男達は蜘蛛の子を散らすように

逃げ出した。



「盗賊の輩でしょう。陛下の事も知らぬようでしたし」




『アスランじゃないから扱いにくい・・・』

そう思った瞬間、馬は暴れだした。

「ユーリ!!」

カイルが慌てて駆け寄る。

馬の足には矢が刺さっていた。


「誰かが馬に矢を・・・!」


それらしい者の姿は無い。

さっきの輩の流れ矢か・・・?


「陛下・・・、離れて・・・!」


ユーリがカイルを避けようと手綱を操ろうとした時

間が悪くバランスを崩し

馬が首を大きく振った事でユーリはそのはずみで

崖の端まで飛ばされた。

そこは少し傾斜がありユーリの身体は少しずつ

赤い河に向かってずり落ちていく。


















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